子供の頃に剣道をやっていたのだが、その道場は近所の寺だった。
寺の講堂の二階に板敷きの道場があって、そこでは剣道以外にバレエなどにも使われていたが、その時の住職は既に他界し、今では息子が跡を継いでいる。
いつもの仕事とも言えないような仕事の帰りに前を通ると参禅の誘いという貼り紙が目に入った。
この寺は単立寺院で特定の宗派には属していないが、中身は曹洞だ。確か先代の時分にはまだ曹洞宗に属していたと思う。自分が檀家の寺も曹洞宗だがそう言えば母方もそうだし姉の旦那の家もそうだ。確か曹洞宗は数としては最も多いのではなかったかと思う。勿論宗祖は道元でいわゆる禅宗と言われるものだ。日曜日に一般人に門戸を開いて参禅指導をしているらしい。
学生の頃、少し離れた寺でやはり毎週日曜日に参禅に行っていたことがある。そこは同じ禅宗でも臨済だった。朝七時から坐って昼前に終わる。お弁当が出てその後時折、有縁の著名人の講演もあったりした。
覚えているのは山びこ学校の無着成恭、多摩動物園の西山園長などでそれぞれが興味深い話だった。しかしこれはとても禅の修行などというものではなく在家の人に少しばかり参禅体験をさせるというほどの企画だったのだろう。
そんなことを思い出してこの参禅会に行ってみたくなった。
しかし今の息子の住職は同い年で一緒に剣道をやっていたこともあるが、その後随分間をあけていきなり再会するのも何か気が退けるのだった。どんな顔をして門をくぐるのか、昔の話をしなければならないのも嫌だ、こんな堂々巡りの思考迷宮に入り込んで結局やはり止めて置こうとなる。いつもこんなことばかり。