忍法夙流変異抜刀霞斬り 眼疾の果てにわが死はあらむ 塚本邦雄
塚本邦雄の有名な歌だが、前半部分は、にんぽうしゅくりゅうへんいばっとうかすみぎり、で白土三平の劇画、カムイ伝の主人公、カムイが操る剣法であることもよく知られている。
この前半部分がふと口をついて出てくることがある。大抵は何か口惜しいことを体験した時だ。自分でもおかしいと思うが、気分的には何か嫌なことに向かってそれをあたかも切り捨てているかのように呟いている。
以前、煙草を吸っていた頃、火をつける際にいつも寺山修司の、マッチ擦るつかのま海に霧深し 身捨つるほどの祖国はありや、が何故か口の端に浮かんでいた。これも癖のようなもので殊更の意味があるわけではなく、そもそもマッチなど使っていないのだ。ちなみに後でこの歌が西東三鬼の俳句を本歌取りしたものであることを知って句集を買ったのは随分昔の話。
何かイベントが起こった時にふと口をついて出てくるフレーズというものは誰しもあるのではないだろうか。
下らないことで心が苛まれることがある。何故か容易にそこから解放されない。その時、妄想するな、 妄想するな、莫妄想、莫妄想と頭のなかで呟いていることもある。実際のところ、先の歌でなくとも何でも良いのだ。それがお題目でも念仏でも祝詞でもいい。抱えているルサンチマンを何かを呟くことによって口から解放させているだけなのだから。
雨の日にはしょうがないしょうがないと無意識に呟いている。ちょっと古いが。