カスケード その2

(承前) フェロタイプ板というのは、バライタ印画紙の表面に光沢を与えるために水洗が終わってまだ濡れている印画紙を張り付け表面に型を付ける鏡面の金属板だ。張り付ける際に水分の除去と密着性を高める目的でスクイーズローラーという道具で印画紙の裏面を強く擦り、表面の気泡を追い出す。

金属板に張り付けられた印画紙はこの後フェロタイプ乾燥器という機械にかけられ熱乾燥される。

乾燥が終わると印画紙は自然と金属板から剥がれる。果たして今度は上手くいったのか。

毎回確認するたびに何処かに気泡の跡があったり光にかざすと光沢にムラが出ていたりして幻滅した。むしろフェロタイプの工程で上手くいった試しがないのだった。

その後、大学に通う傍ら偶々キャンパス近くにあった写真専門学校が主催する、写真の長期保存を目的とする暗室処理、いわゆるアーカイバルプリントのワークショップに参加したりした。そこで学んだのはアーカイバル処理にフェロタイプは使わないということだった。

光沢滑面の印画紙でも乾燥は自然乾燥で行う。具体的にはラックで自然乾燥、そのままだと波打ちが発生するので乾燥しきらない段階でブロッティングペーパーで挟み、辞典などの重しで平滑にする。いわばこれは印画紙の「漬物」だ。

これをやるとバライタの持つ美しさが際立ってくるのに感動した。まさに目から鱗とはこのことだった。しっとりとした上品な光沢感、熱乾燥では得られない銀塩粒子の存在感、ハイライトからシャドウに至る階調までも同じ印画紙なのにまるで違ってくることに驚いた。

アーカイバル処理は長期保存を目的としているので、四辺の際から忍び寄る黄変を画像に影響させないように印画紙の白縁は必ず残すなどの他に、水洗工程にもノウハウがあった。ここでカスケードという考え方が出てくることになる。(続く)

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.